贈る・受け取る経験を通して育む感謝と思いやりの心 絵本と保育の実践
子供たちの心の成長において、他者への感謝や思いやりの気持ちを育むことは重要な課題です。日々の生活や遊びの中で、子供たちが自然にこうした感情を体験し、理解を深める機会を設けることは、彼らの社会性や情動の発達に大きく寄与します。中でも、「プレゼントを贈る」「プレゼントを受け取る」という経験は、感謝と思いやりの両方の感情が交差する貴重な機会となり得ます。
プレゼントの経験が育む心の働き
プレゼントを贈るという行為は、単に物を渡すこと以上の意味を持ちます。そこには、「相手を喜ばせたい」「相手のことを考える」という、他者への思いやりが深く関わっています。子供たちは、誰かのために何かを選んだり、作ったりする過程で、相手の好みや気持ちに想像を巡らせます。この行為自体が、他者への配慮や共感性を育む基盤となります。
一方、プレゼントを受け取るという経験は、自分が他者から大切に思われていることを実感する機会となります。そして、その好意に対して「ありがとう」という感謝の気持ちを抱くことを学びます。感謝の気持ちを言葉や態度で表現することは、贈ってくれた人との関係性をより豊かなものにし、相互の信頼感を深めることにつながります。
このように、プレゼントを贈る・受け取るという一連の経験は、子供たちが感謝と思いやりの両面を同時に、かつ実践的に学ぶことができる機会であり、彼らの心の成長にとって非常に有益な体験と言えます。
感謝と思いやりの心を育む絵本の紹介
プレゼントや贈り物、感謝をテーマにした絵本は数多くあります。これらの絵本は、子供たちがプレゼントにまつわる様々な感情や状況を追体験し、登場人物の気持ちに寄り添うことで、感謝や思いやりについて考えるきっかけを与えてくれます。
例えば、贈る側の工夫や相手を思う気持ちを描いた絵本は、子供たちに「誰かのために考える楽しさ」や「行動することの大切さ」を伝えます。受け取る側の喜びや感謝の表現を描いた絵本は、「ありがとう」と言うことの意味や、物の背景にある贈り手の気持ちに気づくことの重要性を示唆します。
絵本を選ぶ際には、ストーリーを通じて子供たちが登場人物の気持ちに共感しやすいもの、具体的なプレゼントのやり取りが描かれているものなどが、より学びを深める上で有効です。保育者が読み聞かせの際に、登場人物の表情や言葉に注目するよう促したり、「どうしてこの時、〇〇ちゃんは嬉しかったのかな」のように問いかけたりすることで、子供たちの気づきを促すことができます。
保育現場での実践例
プレゼントを贈る・受け取る経験を保育に取り入れる方法は様々です。
- 手作りプレゼントの活動: 特定の行事（例えば母の日、父の日、敬老の日など）や、友達の誕生日、卒園・進級時などに、子供たちが主体となってプレゼントを作る活動は非常に有効です。何を作るか、誰に渡すかを子供自身が考え、素材を選び、工夫しながら形にする過程で、相手への思いやりが育まれます。完成したプレゼントを渡す際には、感謝の気持ちを伝える言葉も一緒に準備することを促します。
- 感謝を伝える機会の設定: 日常の中で、お世話になった人（給食の先生、バスの運転手さんなど）や友達に、感謝の気持ちを込めた簡単なプレゼント（手作りのカード、折り紙など）を贈る機会を設定することも考えられます。特定のイベントだけでなく、身近な人への感謝に目を向けるきっかけとなります。
- プレゼント交換: クラス内で誕生日プレゼントを交換する習慣や、遊びの中でお互いの作品をプレゼントし合うなど、子供同士でのプレゼントのやり取りを促す機会を設けます。その際に、上手に気持ちを伝えたり、受け取ったりする方法を優しくサポートします。受け取ったものに対する感謝の言葉や、大切に扱う姿勢を伝えることの重要性を伝えます。
- 絵本との連携: プレゼントに関する絵本の読み聞かせを行った後、絵本の内容に関連付けて「自分だったらどんなプレゼントをあげたいかな」「プレゼントをもらったらどんな気持ちになるかな」といった話し合いを行います。登場人物の気持ちを考えることが、現実世界での自分の行動と結びつくように促します。
活動を行う際は、子供たちの年齢や発達段階に合わせて内容を調整することが大切です。例えば、年少児であれば「ありがとう」という言葉を声に出して伝える練習、年中児であれば相手の好きなものを考えながら作る経験、年長児であればプレゼントにメッセージを添えるなど、段階的なアプローチを取り入れることが効果的です。
保護者への提案と連携
家庭でもプレゼントの経験は多くあります。誕生日や季節のイベントはもちろん、日常的な「ちょっとした贈り物」の機会を活用することができます。保育園での取り組みを保護者に伝え、家庭での実践を促すことも重要です。
例えば、保護者向けのお便りや懇談会で、保育園で行ったプレゼント作りの活動や、そこから学んだ子供たちの様子を紹介します。「家でも、おじいちゃんやおばあちゃんに、感謝の気持ちを込めた絵を描いてプレゼントしてみてはいかがでしょうか」のように、家庭で取り組みやすい具体的なアイデアを提案します。
また、子供が何かをもらった際に、一緒に「ありがとう」を伝えたり、贈ってくれた人に後日お礼を伝えたりすることの大切さを保護者に伝えます。プレゼントの背景にある相手の気持ちに目を向けるよう促す声かけの方法などを共有することも、保護者の実践を支援することにつながります。
まとめ
プレゼントを贈る・受け取るという経験は、子供たちの心に感謝と思いやりの芽を育むための豊かな土壌となります。絵本を通して感情の多様性を学び、保育現場での具体的な活動を通じて実践を重ね、家庭での経験と連携させることで、子供たちはこれらの大切な感情をより深く理解し、身につけていくことができます。日々の保育の中で、子供たちが誰かを想い、誰かに感謝される喜びを経験できる機会を大切に設けていくことが、彼らの健やかな心の成長を支援することに繋がると言えます。