見えない「頑張り」に気づく心 絵本と保育で育む努力への感謝と思いやりの保育
日常の「頑張り」に目を向け、育む感謝と思いやりの心
子供たちの成長は、日々の小さな挑戦と、それに対する彼らなりの「頑張り」の積み重ねによって支えられています。しかし、その頑張りは、必ずしも目に見える成果に直結するとは限りません。時には失敗したり、思うように進まなかったりすることもあります。そうした目に見えにくい努力やプロセスに気づき、認め、そして感謝する心を育むことは、子供たちの自己肯定感を高めるとともに、他者への共感性や思いやりを深める上で非常に重要です。
この記事では、子供たちの日常の「頑張り」に目を向け、それを肯定的に捉え、感謝と思いやりの心を育むための教育的な意義と、絵本の活用や保育現場での具体的な実践方法について解説します。
努力や頑張りに気づくことの教育的意義
子供たちの努力や頑張りに気づき、それを言葉にして伝えることは、単に褒める以上の意味を持ちます。そこには、以下のような教育的な意義があります。
- 自己肯定感の向上: 結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスや努力を認められることで、子供たちは「自分は一生懸命取り組むことができる存在だ」という肯定的な自己認識を持つことができます。失敗を恐れずに新しいことに挑戦する意欲にも繋がります。
- 粘り強さ(レジリエンス)の発達: 困難に直面しても諦めずに粘り強く取り組む力を育みます。努力が報われなかった経験があっても、その努力自体が認められることで、次への挑戦へのエネルギーとなります。
- 他者への共感と思いやりの深化: 自分が努力することの大変さを知る経験は、他者が何かを成し遂げたり、頑張っていたりする姿を見たときに、「きっと大変だっただろうな」「頑張ったんだな」と共感する心を育みます。そして、その努力に対する感謝や尊敬の念を持つことに繋がります。
- 感謝の心の広がり: 自分の頑張りを支えてくれる人(家族、先生、友達)や環境への感謝、そして他者の努力によって自分が享受できているものへの感謝に気づく機会となります。
絵本を通して「頑張り」に目を向ける
子供の頑張りや努力をテーマにした絵本は、目に見えないプロセスや感情に光を当て、子供たちが自分自身の経験と重ね合わせて考えるきっかけを提供します。
例えば、 * 何かを一生懸命練習する主人公の物語(例: 特定のスキル習得、楽器の練習、運動など) * 困難な課題に立ち向かい、試行錯誤する物語 * 誰かのために見えないところで努力する存在(例: 食べ物を作る人、何かを修理する人、自然の営みなど)が登場する物語 * 失敗しても立ち上がり、再挑戦する物語
これらの絵本を読み聞かせる際には、物語の展開だけでなく、登場人物が「どんな風に頑張っていたかな?」「どうして頑張ろうと思ったのかな?」「頑張っているとき、どんな気持ちだったかな?」「周りの人は、その頑張りにどう関わっていたかな?」といった問いかけを取り入れることが有効です。子供たちが登場人物の「見えない努力」に思いを馳せ、共感する体験は、自身の頑張りを肯定的に捉えたり、身近な人の努力に目を向けたりするための豊かな土壌となります。
保育現場での実践例
日々の保育活動の中で、子供たちの「頑張り」に気づき、それを育むための具体的なアプローチは数多く考えられます。
- 具体的な言葉がけ: 結果だけでなく、子供の行動のプロセスや姿勢に焦点を当てて言葉をかけます。「〇〇ちゃん、このパズルの一番難しいところ、じっと見て考えていたね。すごい集中力だね」「△△くんが諦めないで何度も積み重ねてくれたから、こんなに高いタワーができたんだね」のように、具体的に「何を」「どう」頑張ったのかを伝えます。
- 「頑張り発見タイム」の共有: 園生活の中で見られた友達の頑張っている姿を、クラス全体で共有する時間を作ります。「今日、□□くんが戸外遊びの後、靴を揃えるのを意識して頑張っていたね。素晴らしいね」「◎◎さんが、お友達のために粘土を分けてあげようと、一生懸命に切ってくれたんだね。ありがとうの気持ちでいっぱいだね」など、他者の頑張りや思いやりの行動に気づく機会を意図的に設けます。
- プロセスを可視化する: 作品作りの過程を写真で記録したり、製作途中の様子をクラスに展示したりすることで、結果に至るまでの「頑張り」の道のりを共有します。
- 「きらきら頑張りボード」などの活用: ポジティブな行動や努力を視覚的に記録・共有するボードなどを活用し、子供たちが自身の頑張りを認識し、友達の頑張りに気づくきっかけとします。
- 失敗を成長の機会と捉える: 失敗は悪いことではなく、次の成功のための学びであることを伝えます。失敗した子供の「次こそ頑張ろう」という気持ちを認め、励ます言葉をかけます。
保護者への提案
子供の頑張りへの関わりは、家庭での継続的な取り組みが大切です。保護者には、以下の点を伝えることが考えられます。
- 子供が家庭で見せた「頑張り」(例: お手伝い、難しいことに挑戦する姿、片付けなど)に具体的に気づき、声に出して褒めることの重要性。結果だけでなく、プロセスや努力そのものを承認することの意義を伝えます。
- 親子で一緒に絵本を読み、登場人物の頑張りについて話し合ったり、自分自身の頑張った経験について共有したりする時間を設けることを提案します。
- 保護者自身が、日々の生活の中にある「当たり前」や、家族のために誰かがしてくれた努力に気づき、感謝の気持ちを表す姿を子供に見せることの教育的な効果を伝えます。
まとめ
子供たちの「頑張り」は、目に見える成果として現れることもあれば、内面の成長や見えない努力として積み重なることもあります。私たち大人が、その多様な「頑張り」に温かいまなざしを向け、具体的に言葉にして承認することは、子供たちの自己肯定感、他者への共感性、そして感謝の心を育む上で欠かせない関わりです。
絵本の力を借りながら、また日々の保育や家庭での関わりの中で、子供たちが自身の努力を肯定的に捉え、そして身近な人の頑張りや、見えないところで支えてくれている存在に感謝できるよう、意識的に働きかけていくことが、子供たちの心の豊かな成長に繋がります。小さな頑張りへの気づきが、感謝と思いやりに満ちた、大きな心の発達の第一歩となるでしょう。