絵本と保育で育む 自然や生き物への感謝と思いやりの心
自然や生き物への関心が心の成長を育む基盤となる
子供たちは生まれながらにして、身の回りの世界に対する純粋な好奇心を持っています。特に自然や生き物に対する関心は強く、小さな虫や草花との出会い、季節の変化を感じる体験は、子供たちの五感を刺激し、豊かな感性を育みます。このような自然との触れ合いは、単なる遊びに留まらず、生命の尊さや他者（他の生物）への配慮、そして自身が大きな生態系の一部であることへの気づきへと繋がります。これらの気づきこそが、感謝と思いやりの心を育むための重要な基盤となります。
自然の中で成長する植物や、懸命に生きる小さな生き物たちの姿に触れることは、生命の営みに対する畏敬の念や、自分たちに与えられている恵みへの感謝の気持ちを芽生えさせます。また、生き物が置かれている状況を理解しようとすることは、他者の立場に立って考える思いやりの心を育みます。本稿では、絵本と保育の実践を通して、子供たちの内に秘められた自然や生き物への感謝と思いやりの心をどのように育んでいくかについて考察します。
自然や生き物をテーマにした絵本の力
自然や生き物を描いた絵本は、子供たちが実体験だけでは得られない多様な世界に触れる機会を提供します。生き物の生態や植物の成長過程、季節の移ろいなどを分かりやすく、時には詩的に表現した絵本は、子供たちの想像力を掻き立て、対象への関心を深めます。
感謝と思いやりの心を育む絵本の例
- 『おおきなかぶ』 (文：A.トルストイ / 絵：佐藤 忠良 / 福音館書店)： みんなで力を合わせて困難を乗り越える物語は、助け合いの大切さ、つまり他者への思いやりを学ぶ上で古典的な一冊です。自然の恵みであるかぶを収穫する喜びも描かれており、自然への感謝の視点も含まれています。
- 『わたしのワンピース』 (作：にしまき かやこ / こぐま社)： 白い生地が様々な自然物（花、雨、空など）によって美しい模様に変化していく様子を描いています。身の回りの自然が豊かな恵みを与えてくれることへの気づきや、創造することの楽しさを示唆し、自然への感謝の気持ちを育むことに繋がります。
- 『ちいさなかがくのとも』シリーズ (福音館書店)： 毎号異なるテーマで、子供の身近な自然や生き物を科学的な視点から、しかし分かりやすく丁寧に描いています。一つのテーマを深く掘り下げることで、生き物や自然現象に対する知的好奇心を刺激し、「なぜだろう？」という探求心から、対象への関心と愛情、ひいては思いやりや感謝の気持ちを育みます。例えば、アリの生活、植物の種の仕組み、水辺の生き物など、多岐にわたるテーマがあります。
これらの絵本は、物語の楽しさだけでなく、自然や生き物へのまなざしを深め、それらへの感謝や思いやりの気持ちを自然に育むための入り口となります。
保育での具体的な実践方法
絵本を読み聞かせた後、子供たちの反応を見ながら、絵本のテーマに関連した保育活動を取り入れることが効果的です。
読み聞かせ後の対話
絵本に登場する自然や生き物について、子供たちに自由に意見を言ってもらう時間を設けます。 * 「このお花、きれいだね。誰が咲かせてくれたのかな？」 * 「雨が降ると、植物は喜ぶのかな？」 * 「この虫さんは、どこに行くところかな？何をしているのかな？」 * 「もし自分がこの動物だったら、どう感じるかな？」
このような問いかけは、子供たちが対象への関心を深め、感情を想像し、共感的な視点を持つきっかけとなります。
五感を使った自然体験活動
園庭や近くの公園、散歩の途中で自然と触れ合う機会を積極的に設けます。 * 植物の観察と世話: 季節の草花や野菜を育て、水やりや草取りを行います。植物が成長する様子を観察し、命の営みを感じることで、感謝の気持ちや大切に思う心を育みます。収穫した野菜をみんなで調理して食べる経験は、自然の恵みへの感謝をより深めます。 * 生き物との触れ合い: 安全な環境で、園にいる生き物（メダカ、カブトムシなど）を観察したり、飼育したりします。命があるものを世話する責任感や、生き物の気持ちを想像することから、思いやりの心が育まれます。 * 自然素材を使った遊び: 落ち葉、木の実、枝、石などを使って製作や造形遊びを行います。自然物の形や色、手触りを楽しむことで、自然への親しみが深まります。
これらの活動は、子供たちの発達段階に合わせて、保育者が適切な声かけやサポートを行うことが重要です。集団での活動だけでなく、個々の子供がじっくりと自然と向き合える時間も設けると良いでしょう。
保護者との連携
自然や生き物への感謝と思いやりの心を育む取り組みは、家庭との連携が不可欠です。
- 情報共有: 園での自然体験活動や、関連絵本の紹介などを、連絡帳や園だよりで保護者に伝えます。子供が園で体験したことを家庭で話すきっかけになります。
- 家庭での推奨活動: 保護者に対して、子供と一緒に近所の公園を散歩する、ベランダで簡単な植物（ミニトマト、ハーブなど）を育てる、虫や鳥を一緒に観察するなど、家庭でできる身近な自然体験を提案します。
- 絵本の紹介: 園で読んだ絵本や、関連するテーマの絵本リストを保護者に紹介し、家庭での読み聞かせを促します。
家庭と園が一体となって自然や生き物との触れ合いを大切にすることで、子供たちの感謝と思いやりの心はより豊かに育まれます。
まとめ
自然や生き物との関わりは、子供たちの感性を磨き、生命への畏敬の念や、自分以外の存在に対する感謝と思いやりの心を育むための貴重な機会です。絵本は、この関心を深め、心の成長を促す素晴らしいツールとなります。絵本の読み聞かせに加え、五感を使った具体的な自然体験活動を保育に取り入れることで、子供たちは頭だけでなく体全体で、自然や生き物の大切さ、そしてそこから生まれる感謝と思いやりの気持ちを感じ取ることができます。
日々の保育において、子供たちが小さな発見や体験を通して、自然や生き物への愛情を育み、それがやがて他者への思いやりへと繋がっていく過程を大切に見守っていくことが重要です。この積み重ねが、子供たちの豊かな心の成長へと繋がっていくことでしょう。