身近な人への感謝に気づき、育む 絵本と保育での関わり
幼児期における身近な人への感謝の重要性
幼児期は、子供たちが自己と他者の関係性を認識し始め、情緒的なつながりを深めていく重要な時期です。この時期に最も身近な存在である家族や保育者といった大人との関わりを通して、子供たちは安心感を得ると同時に、他者への信頼や感謝の気持ちの基礎を築いていきます。身近な人からの愛情やサポートを感じ、それに感謝することは、自己肯定感を育み、他者への思いやりや共感性へと繋がる心の成長にとって不可欠な経験となります。
子供たちが身近な人の存在や、自分が受け取っている恩恵に自然と気づき、感謝の気持ちを表現できるようになるためには、意図的な関わりや働きかけが有効です。絵本は、抽象的な感情や社会的な関係性を子供に分かりやすく伝える優れた媒体であり、身近な人への感謝を育む上で大いに役立ちます。
身近な人への感謝を育む絵本の活用
身近な人への感謝をテーマにした絵本は数多く存在します。これらの絵本は、登場人物と自分自身を重ね合わせたり、物語を通して感謝の具体的な行動や言葉を知ったりする機会を提供します。
おすすめの絵本の例
- 『ママだいすき パパだいすき』 (作・絵: みやにし たつや、ポプラ社): 親子の愛情や日々の小さな関わりの大切さを温かく描いています。絵本を通して、子供は親からの無償の愛情を感じ、感謝の気持ちを芽生えさせることができます。
- 『いつもありがとう』 (作・絵: さとう めぐみ、教育画劇): 日常生活の中での「ありがとう」が持つ力を描いた絵本です。身近な人への感謝の言葉や行動について、具体的なイメージを持つことができます。
- 『おつきさまってどんなあじ?』 (作: マイケル・グレイニエツ、訳: 岸田 衿子、セーラー出版): 様々な動物たちが力を合わせる物語ですが、身近な仲間との協力や、その過程での互いへの感謝の気持ちを間接的に感じ取ることに繋がります。
これらの絵本を選ぶ際は、子供の年齢や発達段階、そしてクラスや家庭の状況に合わせて、共感しやすい内容であるか、メッセージが分かりやすいかなどを考慮することが重要です。読み聞かせの際には、物語の内容について子供と話し合う時間を持つことで、絵本のメッセージをより深く理解し、自身の経験と結びつけることができます。
保育現場での実践例
絵本を活用した読み聞かせに加えて、保育現場では様々な活動を通して、子供たちが身近な人への感謝の気持ちに気づき、育むことを支援できます。
- 絵本の内容に沿った話し合い: 絵本を読んだ後、「〇〇ちゃんは、誰に『ありがとう』を伝えたいかな?」「△△君がしてもらった嬉しいことはどんなこと?」など、子供自身の経験と結びつける質問を投げかけます。
- 「ありがとう」のカード・プレゼント作り: 家族や保育者など、身近な人への感謝の気持ちを込めた絵や手紙、簡単な製作物を作る活動は、感謝を行動で表現する良い機会となります。
- 役割遊びでの「お世話する側」体験: ごっこ遊びの中で、お父さんやお母さん、保育者などの役割を演じることで、普段自分がしてもらっていることの大変さやありがたさに気づくことがあります。
- 給食の準備・片付け: 毎日の給食の準備や片付けを手伝う経験は、食事を提供してくれる人への感謝、そして食べ物への感謝に繋がります。手伝ってくれた子に「ありがとう」と伝える、手伝ってもらった子が「ありがとう」と言う、といった互いに感謝し合う場面を設けることも有効です。
これらの活動は、子供たちが身近な人の支えに気づき、感謝の気持ちを表現するスキルを養う上で役立ちます。活動を通して、子供たちは「してもらうこと」だけでなく、「してあげること」の喜びや、互いに支え合うことの大切さも学びます。
教育的な効果
身近な人への感謝を育む経験は、子供の多面的な発達に寄与します。
- 感情認識と表現力の向上: 感謝という感情を認識し、言葉や行動で適切に表現する力が育まれます。
- 共感性と他者理解の深化: 身近な人の立場や気持ちを想像することで、他者への共感性が高まります。
- 自己肯定感の向上: 感謝される経験や、感謝を伝えることで相手に喜ばれる経験は、自己肯定感を育みます。
- 良好な人間関係の構築: 感謝の気持ちを適切に伝えられる子供は、他者との良好な関係を築きやすくなります。
- 道徳性の基礎: 身近な人への感謝は、より広い社会や他者への配慮や道徳観念の基礎となります。
これらの効果は、子供たちが健やかな心を育み、社会の中で生きていく上での大切な基盤となります。
保護者との連携
家庭は、子供が最初に感謝や思いやりを学ぶ場です。保護者との連携は、子供の心の成長を支援する上で非常に重要です。
- 家庭での実践の提案: 保護者会や日々の連絡を通して、絵本や保育での取り組みを紹介し、家庭でもできる簡単な実践を提案します。例えば、「食事の際に『いただきます』『ごちそうさま』の意味について話し合う」「家族で一日の感謝を伝え合う時間を持つ」「子供にお手伝いを頼み、『ありがとう』と伝える」などが考えられます。
- 子供の家庭での様子を共有: 保護者から、子供が家庭で感謝の気持ちを表現したエピソードなどを聞き取り、保育の参考にするだけでなく、保護者への肯定的なフィードバックとして活用します。
- 感謝の気持ちを伝えることの重要性を伝える: 親子で互いに感謝の気持ちを言葉にすることの大切さや、それが子供の自己肯定感や家族の絆を深めることに繋がる点を伝えます。
保護者と保育者が連携し、一貫したメッセージで子供に関わることで、感謝の気持ちはより確かなものとして子供の心に根付いていきます。
まとめ
幼児期に身近な人への感謝の気持ちを育むことは、子供の健やかな心の成長にとって非常に大切です。絵本を活用した読み聞かせや、保育現場での具体的な活動、そして保護者との連携を通して、子供たちは自分が身近な人に支えられていることに気づき、感謝の心を育んでいきます。これらの経験は、子供たちが他者を思いやり、豊かな人間関係を築いていくための礎となるでしょう。日々の保育の中で、子供たちが「ありがとう」の温かさを感じ、表現できる機会を積極的に設けていくことが期待されます。