「自分と相手の良いところを見つける」経験が育む感謝と思いやりの心 絵本と保育での学び
子供たちが健やかに成長する過程で、自分自身や他者の良いところに気づき、それを認め合う経験は極めて重要です。この経験は、単にポジティブな自己認識や他者への関心を育むだけでなく、感謝や思いやりの心の基盤を築くことにもつながります。本記事では、自分と相手の良いところを見つけることが子供たちの心の成長にどのように寄与するのかを考察し、そのための絵本活用や保育現場での実践について提案します。
自分と相手の良いところを見つける経験の重要性
子供が自分の良いところに気づくことは、自己肯定感や自信の育成に不可欠です。自分が価値のある存在であると感じることで、挑戦する意欲が湧き、困難に立ち向かう力が育まれます。一方、他者の良いところに気づくことは、他者への肯定的な関心を持つことにつながります。これは、他者を理解しようとする姿勢や、多様な個性を受け入れる寛容性を育む上で重要な要素となります。
さらに、他者の良いところに気づくことは、その人が自分や周りの人々に対して与えている価値や貢献に目を向けることでもあります。例えば、友達が困っている時に助けてくれたり、丁寧におもちゃを片付けたりする姿の良い点に気づくことは、「ありがとう」という感謝の気持ちや、「自分も誰かの役に立ちたい」という思いやりの心の芽生えにつながる可能性があります。このように、自分と相手の良いところを見つける経験は、自己肯定感、他者理解、そして感謝と思いやりの心を多角的に育む学びの機会となります。
自分と相手の良いところを見つける経験を育む絵本
絵本は、子供たちが多様な価値観や感情に触れ、自分自身や他者について考えるきっかけを与えてくれる優れた教材です。ここでは、自分や相手の良いところを見つける経験につながるテーマを扱った絵本と、その活用方法を紹介します。
自分の良いところ・個性を認める絵本
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『ぜったい ぜったい けんかしない』 (ヨシタケシンスケ 作、ブロンズ新社)
- 二人の登場人物が、それぞれの譲れないこだわり(良いところ、あるいは個性)を持ち寄ることで生まれるユーモラスなやり取りが描かれています。違いがあること、自分の「良い」と思うところを大切にすることの楽しさや、それが時にぶつかり合いながらも共存できる可能性を示唆します。
- 活用方法: 読み聞かせ後、「みんなが持っている『ぜったい〇〇しない(する)』ってあるかな?」「〇〇ちゃんの素敵なところはどんなところ?」など、子供たちの個性やこだわり、そしてそれが持つ面白さについて話し合う時間を持つことで、自分や友達の良いところに目を向けるきっかけとなります。
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『わたしとなかよし』 (アニータ・ローベル 作・絵、光吉 夏弥 訳、文化出版局)
- 自分自身と仲良くすること、自分を大切にすることの心地よさが描かれています。自分の内面や感覚に目を向け、肯定的に受け止めることの穏やかさを伝えます。
- 活用方法: 読み聞かせ後、「自分が好きなところはどこかな?」「どんなことをしている時が一番楽しい?」など、自分自身の心や体、好きなことについて考える機会を設けることで、自己肯定感を育むことにつながります。
他者の良いところ・多様性を見つける絵本
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『みんなちがって、みんないい』 (みさき よしひろ 文、くすのき しげのり 絵、ひかりのくに)
- 様々な個性や立場の人々が登場し、それぞれが持つかけがえのない良いところに光を当てています。違いを認め、互いを尊重することの大切さを穏やかに伝えます。
- 活用方法: 読み聞かせ後、「絵本には色々な人が出てきたけれど、みんなの周りにはどんな素敵な人がいるかな?」「〇〇君の良いところはどこ?」など、具体的な友達の良いところを見つけ、言葉にしてみる活動を取り入れることで、他者への肯定的な関心を深めます。
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『てとてとてとて』 (くせ さちこ 作、佼成出版社)
- 様々な動物たちの「手」に焦点を当て、その形や役割の違いを描いています。それぞれの手にそれぞれの良さがあることを視覚的に分かりやすく示しており、多様性の肯定につながります。
- 活用方法: 読み聞かせ後、「みんなの手はどんな形?」「手を使ってどんなことができるかな?」といった問いかけから始め、体だけでなく、それぞれの子供が持っている得意なことや好きなこと、できることの違いに目を向け、「みんな違うから面白いね」「色々なことができる人がいると助け合えるね」といった話し合いに発展させることができます。
保育現場での具体的な実践例
絵本から得た気づきを、日々の保育活動の中で実践に落とし込むことが重要です。以下に、自分と相手の良いところを見つける経験を促す具体的な活動例を提案します。
- 「良いところシャワー」: 一人の子供に順番にスポットを当て、他の子供たちや保育者がその子供の良いところを具体的に言葉にして伝えます(例:「〇〇ちゃんは、いつも元気な声であいさつするね」「△△君が、貸してくれて嬉しかったよ」)。これにより、言われた子供は自己肯定感を高め、言う側の子どもは他者の良いところを見つける練習になります。
- 「クラスの良いところマップ」作成: クラスの壁に大きな紙を貼り、「〇〇組の素敵なところ」と書き、子供たちがクラスや友達の良いところを見つけるたびに、絵や言葉、簡単な文章で書き加えていきます。視覚化することで、クラス全体で肯定的な雰囲気を共有できます。
- 「ありがとう交換ポスト」: 誰かに助けてもらったり、良いなと感じる行いを見つけたりした時に、その「良いところ」と「ありがとう」の気持ちを簡単な絵や文字で書いてポストに入れる仕組みを作ります。定期的にポストを開けて発表する時間を持つことで、感謝の気持ちを行動で伝える練習になります。
- 日々の声かけ: 保育者が日々の保育の中で、子供たちの良い行動や個性的な考え方、努力している点などを具体的に認め、言葉にして伝えることを意識します。「〇〇ちゃん、丁寧に積み木を並べているね、すごい集中力だね」「△△君のそのアイデア、面白いね!」といった声かけは、子供自身が良いところに気づく助けとなります。
教育的効果と保護者への連携
自分と相手の良いところを見つける経験は、子供たちの以下の能力や心の成長に寄与します。
- 自己肯定感と自信の向上: 自分の価値を認識し、自信を持って行動できるようになります。
- 他者理解と共感性の発達: 相手の立場や感情、価値観を理解しようとする姿勢が育まれます。
- ポジティブな対人関係の構築: 互いの良いところを認め合うことで、集団内での安心感や協力関係が深まります。
- 感謝と思いやりの心の芽生え: 他者の貢献や良い行動に気づくことが、感謝の気持ちや「誰かのために」という思いやりにつながります。
これらの教育的効果を保護者と共有し、家庭での連携を図ることも重要です。保育参観などで子供たちの「良いところ探し」の活動を紹介したり、園だよりで絵本の紹介や家庭でできる声かけのヒントを伝えたりすることが考えられます。例えば、「お子さんの今日の良いところを一つ見つけて伝えてみましょう」「親子でお互いの好きなところ、良いところを伝え合う時間を持ってみましょう」といった具体的な提案は、保護者が家庭で実践しやすい形で子供の心の成長を支援することにつながります。
結論
自分と相手の良いところに気づき、それを認め合う経験は、子供たちの自己肯定感、他者理解、そして感謝と思いやりの心を育む上で極めて重要な学びの機会です。絵本を活用した導入や、保育現場での日常的な声かけや具体的な活動を通して、子供たちは互いを尊重し、温かい関係性を築いていくための大切な一歩を踏み出します。この学びは、子供たちが社会の中で他者と共生していく上での確かな基盤となるでしょう。日々の保育の中で、子供たちの素敵なところに目を向け、それを言葉にして伝えることから始めてみてはいかがでしょうか。