「一緒にやり遂げる」経験が育む感謝と思いやりの心 絵本と保育でのアプローチ
子供たちの発達において、集団での活動や、共通の目標に向かって他者と協力する経験は非常に重要です。このような「一緒にやり遂げる」過程は、単に課題を達成するだけでなく、子供たちの内面に豊かな心の育みを促します。特に、感謝や思いやりの心は、この経験を通して自然に培われていく側面があります。
「一緒にやり遂げる」経験が育む心の力
子供たちが共通の目標に向かって力を合わせる時、そこには様々な学びがあります。まず、一人では難しいことでも、皆で協力すれば可能になるという成功体験を得られます。この時、子供たちは自身の貢献が全体の達成に繋がることを実感し、自己肯定感を高めると同時に、他者の貢献の価値にも気づくようになります。
共同作業の中では、役割分担や意見の調整が必要となる場面が出てきます。自分の役割を果たすことの責任感、そして他者の役割や考え方を尊重することの重要性を学びます。困難に直面した際には、互いを励まし合い、助け合う中で、共感性や思いやりの心が育まれます。そして、目標を達成した時の喜びを皆で分かち合う経験は、連帯感を強め、共に頑張った仲間への感謝の気持ちを深めます。
こうした一連のプロセスを経て、子供たちは協力することの楽しさや大切さを体感し、他者への感謝や配慮を自然に身につけていくのです。
「一緒にやり遂げる」テーマに関連する絵本
共通の目標に向かって協力し、達成する喜びを描いた絵本は、子供たちの共感を引き出し、保育や家庭での対話のきっかけとなります。以下に、このテーマに関連する絵本をいくつか紹介します。
- 『きょだいなきょだいな かぶ』
- トルストイ原作、内田莉莎子再話、佐藤忠良画
- 福音館書店
- 対象年齢:3歳頃から
- 内容:おじいさんが抜こうとしても抜けない大きすぎるかぶを、おばあさん、まご、いぬ、ねこ、ねずみと、次々に力を合わせてやっと抜く物語。
- 教育的効果:小さな力でも皆で合わせれば大きな力になることを視覚的に分かりやすく伝えます。役割分担の重要性や、互いの存在が不可欠であることを自然に学べます。
- 『スイミー』
- レオ・レオニ作、谷川俊太郎訳
- 好学社
- 対象年齢:3歳頃から
- 内容:広い海でたった一匹になってしまった小さな黒い魚スイミーが、たくさんの仲間と出会い、皆で大きな魚のふりをして困難を乗り越える物語。
- 教育的効果:集団で知恵を出し合い、協力することで危険を回避し、生き抜くことができるというメッセージが込められています。リーダーシップや集団の中での自分の役割、そして共に生きることの価値を考えるきっかけになります。
- 『ぐりとぐら』
- なかがわりえこ作、おおむらゆりこ絵
- 福音館書店
- 対象年齢:4歳頃から
- 内容:野ねずみのぐりとぐらが、大きな卵を見つけて、一緒に大きなカステラを作り、森の動物たちと分かち合って食べる物語。
- 教育的効果:二人で協力して何かを作り出す楽しさ、創意工夫することの喜びが描かれています。完成したものを皆で分かち合う場面は、達成感と共有の喜び、そして感謝の気持ちを育むことに繋がります。
これらの絵本は、子供たちが物語の世界に入り込み、登場人物に共感しながら、協力や助け合いがもたらす良い結果を体験的に学ぶのに適しています。
保育現場での実践例
絵本を通して「一緒にやり遂げる」ことの面白さや大切さに触れた後、実際の保育活動の中で子供たちが協力して目標を達成する経験を意図的に設けることが有効です。
- 絵本からの発展活動:
- 『きょだいなきょだいな かぶ』を読んだ後、皆で大きな模造紙に絵を描いたり、大きな新聞紙の塊を皆で協力して運んだりする遊びを取り入れます。
- 『スイミー』を読んだ後、皆で一つの大きな魚の絵を描いたり、体を寄せ合って大きな魚を表現したりする集団遊びを行います。
- 『ぐりとぐら』を読んだ後、簡単なクッキング(ホットケーキ作りなど)や、皆で共同で大きな作品(貼り絵、段ボール工作など)を作る活動を取り入れます。
- 共同制作・プロジェクト:
- 壁面飾りや発表会の背景画、運動会のクラス旗など、皆で協力して一つのものを作り上げます。子供たち一人ひとりが担当する部分を決めたり、互いに手伝い合ったりする過程で、協力の大切さを実感します。
- クラスで育てる植物の世話や、飼育している生き物の世話など、皆で協力して一つの目標(元気に育てる)に向かう経験も有効です。
- 集団遊び:
- 玉入れ、リレー、大縄跳び、複数での鬼ごっこなど、チームで協力することが勝利や楽しさに繋がる遊びを取り入れます。勝敗よりも、皆で声を掛け合ったり、励まし合ったりする協力の過程を重視します。
- お遊戯会や生活発表会での劇や遊戯の練習も、皆で動きを合わせ、一つの目標に向かって練習する貴重な協力体験となります。互いの頑張りを認め合い、成功を皆で喜ぶ経験は、大きな達成感と感謝を生みます。
これらの活動を通して、子供たちが互いの存在の大きさに気づき、感謝や思いやりの気持ちを育むためには、活動の目的や過程での子供たちの姿に丁寧に寄り添い、言葉で肯定的にフィードバックすることが重要です。成功だけでなく、上手くいかなかった時も「どうすれば皆で一緒にできるかな?」と一緒に考え、解決策を見出す経験も、困難を乗り越える力と協調性を育みます。
保護者との連携と家庭での取り組み
保育園での「一緒にやり遂げる」経験で子供たちが育んだ感謝や思いやりの心を、家庭でも継続して育んでいくために、保護者への情報提供や連携が有効です。
- 情報提供:
- クラスだよりや連絡帳で、保育園での共同活動の様子(誰と誰が協力してできたこと、皆で頑張ったことなど)を具体的に伝えます。
- 絵本の紹介や、それが育む心の力について説明し、家庭での読み聞かせや話し合いを促します。
- 家庭での提案:
- 親子や兄弟姉妹で協力して行う簡単な家庭での作業(食事の準備や片付け、掃除、庭の手入れなど)を提案します。
- 家族で共通の目標(週末の外出計画、お家でのイベント、片付けなど)を立て、皆で協力して達成する経験を推奨します。
- 家族の中で互いに「ありがとう」「助かったよ」など、感謝や労いの言葉を伝え合う習慣を大切にすることの重要性を伝えます。
- 子供が家庭で協力的な行動をとった際に、具体的に褒め、その行動が他者にとってどのような助けになったかを伝えることで、思いやりの行動と感謝されることの繋がりを意識させます。
家庭と保育園が連携し、子供たちが様々な場面で「一緒にやり遂げる」経験を積むことは、感謝と思いやりの心をより豊かに育む基盤となります。
まとめ
共通の目標に向かって他者と協力し、共に何かを成し遂げる経験は、子供たちの感謝や思いやりの心を育む上で、非常に価値のある機会を提供します。協調性、互いの貢献への気づき、困難の克服、達成感の共有といったプロセスを通して、子供たちは自分以外の存在の大切さを実感し、自然と感謝の気持ちが芽生え、他者を思いやる行動へと繋がっていきます。
絵本は、こうした協力の物語を通して子供たちの興味を引きつけ、共感を生む導入として有効です。そして、保育現場での共同制作や集団遊び、家庭での共同作業といった具体的な実践を通して、子供たちは協力することの楽しさや、そこから生まれる豊かな人間関係を実体験として学びます。
子供たちの心の成長を支えるために、「一緒にやり遂げる」経験が持つ教育的な価値を理解し、日々の保育や家庭での関わりの中で積極的に取り入れていくことが、感謝と思いやりの心を育む確かな一歩となるでしょう。